日本の伝統の担い手として何をするべきなのか?/”問い”を育む 高校生たちの物語 #09
「”問い”を育む 高校生たちの物語。」は、カタリバオンライン for Teensで出会った全国の高校生の「未来」と「探究」を応援するインタビュー企画。
日常の小さな疑問や違和感、純粋な好奇心や”好き”から、迷いながら一歩ずつ「マイストーリー」を歩む高校生を紹介します。
Kzさんプロフィール
高校3年、滋賀在住、バスケットボール部所属 |
「伝統音楽」の保存と継承。どうやって解決する?
Q:今取り組んでいる探究活動/マイプロジェクトについて教えてください
伝統音楽の保存とその進展というテーマで探究をしています。
日本で古くから人々に親しまれてきた、箏曲(そうきょく)、尺八、三味線楽などの伝統音楽・伝統楽器は、気候変動や生物多様性の喪失などの環境問題によって保存が困難になっています。
例えば、お箏の爪はアフリカ産の象牙が使用されていますが、現在は、アフリカ象の密猟や絶滅の恐れがあるとしてワシントン条約で国家間の輸出入が制限されています。そういった外交や自然環境によって伝統楽器自体の性能値が限られてしまう課題があります。実際、三曲合奏の全盛期であった100年前と比べると、楽器の音色の質が本来のものとは変化してしまっていると言われています。
象牙問題は国家間レベルなので、個人の力で解決するのは難しいのですが、まずできることとして私が提唱しているのが、持続可能なリサイクルシステムです。現時点で象牙は取れますが、日本の和楽器市場にはほとんど入ってきていません。象牙に近い素材を活かして楽器を生産し、本来の伝統音楽を未来に継承していく方法を考えています。
Q:伝統音楽に興味を持ち始めたきっかけは何ですか
物心がついた時から伝統音楽に親しみをもちながら生活してきたからです。
私は、お箏(こと)や尺八(しゃくはち)、三味線などの邦楽一家で生まれ、5歳の頃から祖父母・父の影響で、伝統音楽に触れてきました。祖父は尺八演奏家、父は箏奏家です。
そんなこともあって、幼少期から祖父に日本の伝統文化の独自性を保存していく必要性を教えられてきました。私もいずれはこの伝統音楽を支えていく立場になるため、考えていかなければいけないと思っています。
また、30年前には確かな担い手として若者が主力と言われていましたが、現在は伝統音楽を担う若手が減少している課題もあります。自宅は父が伝統音楽の教室をしていて、毎日お弟子さんと顔を合わせるのですが、私と同世代くらいの若者と触れ合う機会はなく、やはり年配の方が多いです。
家の環境のおかげもありますが、伝統音楽の担い手として、私しかできないこともあると思うので、これから考えて解決していきたいと思っています。
▲自宅でお箏を演奏
何世代にも渡って受け継いできた「伝統音楽」を途絶えさせない
Q:探究活動/マイプロジェクトを通じて、どんな学びや変化がありましたか
まずは活動全体を通して、伝統音楽にまつわる現状の課題について把握でき、自分の理想が明確になりました。これから、大学で何を学ぶ必要があるのかや、卒業後のビジョンが具体的にイメージできるようになり良かったと思います。
あとは、問題発見・解決能力がついたと思います。伝統音楽に日頃から触れられる環境にいるから気づけたこともありますが、自分の視点で問題や違和感に気づき、どう解決したら良いのか?考えて行動する能力が養われたと思います。
例えば、現時点では、象牙は取れないため、象牙に近い素材でお箏の爪を生産できないか検証してみました。いろんな素材で作った結果、プラスチックが最も近いということがわかりました。実際に象牙と比較したのですが、プラスチックだと違和感があり、やはり生物の神秘性の良さは象しか持っておらず、それに近づけることは難しいと感じました。
象牙を超える素材は見つからなかったのですが、構造は同じなので、プロの演奏家は象牙、お子さんの習い事や趣味などで使用する箏の素材はプラスチックで代用しても問題ないですし、コスト面や環境的な観点でポジティブな影響を与えると思いました。
このように、自分自身で課題を発見し、仮説を持って取り組む中で、新たなアプローチを見つける過程は、今後色々なことに取り組んでいく上で、非常に役に立つと感じています。
Q:これからどんなことにチャレンジしていきたいですか
私ができることは音楽の力で環境問題に対しての人々の意識を改善することです。
将来は、箏奏アーティストとして活動しながら、持続可能な消費、生産パターンを確保することに個人間レベルから取り組みたいと思っています。
また、将来志向から保存の方法というのも変わるということも視野に入れて、生きている間に象牙にどれだけ近づけれるかというのは人生の課題です。どの伝統楽器も取り残さない、箏サスティナブルを実現したいです。
また、私は祖父をとても尊敬しており、その人柄にも大きな影響を受けています。祖父は、人間国宝に認められたあとも偉そうにせず、今まで通り舞台に立ち演奏を続けていました。演奏家としても一流でしたが、藝大で教授活動をしたり、後進の育成にも熱心に取り組んでいました。私も祖父のような大人になりたいと思っています。
カタリバオンラインの意義は、多様性が深まる場所
Q:今回カタリバオンライン for Teensに参加してどうでしたか
今年6月に部活を引退したタイミングでカタリバオンラインを見つけました。「同世代のSDGsの意識や関心はどんな感じか」とにかくみんなに問いを投げてみたかったし、これまで問いを出せる場所がなかったため、参加したいと思いました。
また、コロナの影響で高校1年生の頃から文化祭・体育祭などに一度も参加したことがなく、校内でも生徒同士で交流ができる機会がありませんでした。高校生の間に一度はそういった場所に参加したいと思っていたので、出会えて良かったです。
実際に集まった高校生は一人ひとり個性があり、自分なりの定義がしっかりしている印象でした。そういう同世代の高校生に刺激をもらったり、自分の想いや考えを届けることが大事だと思いました。
Q:「イベントプロデュースコース」に参加してみてどんな学びがありましたか
参加して一番のメリットは、今から自分がやろうしていることに自信が持てたことです。
これまで取り組んできた課題があり、どうすれば良いか自分で試行錯誤してきましたが、大学生のキャストさん・高校生がそこに共感をしてくれたことで、「私がやるべきだ」と改めて自覚しました。
今後、社会にある課題を変えたい時に、考えがあっても言語化できないと、伝わらないですよね。自分の中の軸や想いを言葉で表すことで共有ができたり、自分と同じ想いを持った同志や協力者を増やしていくことができれば大きな力になると思います。
Q:最後に全国の高校生へメッセージをお願いします!
未来を変えたい、仲間を作りたい、と思ったら、まずは小さな一歩を踏み出してみることがおすすめです。スマホでの指先一つの勇気、簡単なアクションだけで、カタリバオンラインに集まる高校生のような知的好奇心・知的興奮がある人と出会えるし、それがきっかけで自分の心の何かが動くと信じています。